東京農業大学
「食と農」の博物館へ行こう!
日本の食と農のレガシーを具現化!【前編】

東京農業大学の世田谷キャンパス正門から歩いて2分ほどの場所に、大きな鶏の像とスタイリッシュな外観が目印の東京農業大学の「「食と農」の博物館」がある。日本の食文化と農業の魅力を発信する博物館に潜入した。
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農学の世界を深く楽しく知る

「大学の美術館、博物館は一般的に敷地内にありますが、『「食と農」の博物館』は住宅街の真ん中に位置します。つまり、地域とのつながりの上に成り立っています」と、2025年3月末まで館長を務めた木村李花子さんは話す。
2004年に開館した同館の源流は東京農業大学の前身、東京高等農学校の初代校長・田中芳男が1904年に設置した標本室にさかのぼる。田中は「日本の博物館の父」としても知られ、校長となり最初に取り掛かったのが研究資料や標本の収集だった。当時の資料は戦争で焼失したが、大学の研究成果を積極的に社会に向けて発信する精神が現在に受け継がれている。

コレクションの柱は3つ。ひとつ目は鶏の剥製標本コレクションで、日本鶏、外国鶏の約120体が並ぶ。「日本人が日常的に鶏を食したのは明治以降で、それ以前は愛玩用でした。長鳴鶏、尾長鶏、矮鶏、闘鶏など日本人と鶏との関係性、その歴史がわかるコレクションとなっています」
ふたつ目は古農具で、約3000点を収蔵する。農具は「所得倍増計画」の閣議決定と「農業基本法」が制定された1960年代はじめを境に機械化が進んだが、古農具はそれ以前の手作業による農業を支えてきた。東京農業大学の卒業生の実家を訪ねて、トラックで回って集めた貴重な資料だ。「農具は同じ作業で使うものでも、地域によってかたちも違えば名称も異なります。身近にあった木を取り、手づくりしたものもあれば、オーダーメイドされた贅沢な農具も。農具は手の先、足の先、つまり身体の延長としてあったのです」

3つ目は全国の私立大学で初の「醸造科」設置に尽力し、初代学科長となった住江金之が集めた酒器と酒の風俗・文化に関するコレクション。錦絵からお座敷遊びの道具まで幅広く網羅する。
「食と農は突き詰めれば生きることにつながり、農業、農学には人間の暮らしのすべてが含まれます。今後は所蔵品をデータベース化して発信する予定です。農学の世界を深く楽しく知ってもらえたらうれしいですね」
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text: Seika Mori photo: Atsushi Yamahira
2025年6月号「人生100年時代、食を考える。」